(投稿者:河野周輔)

利益剰余金を資本金に組み入れる際の利益剰余金は、いつの時点の金額を使用することになるでしょうか。設立第1期目の会社で、出だしから非常に業績が良く、上半期での集計をしてみると2,000万円もの利益が出たとします。この半年間の利益2,000万円を資本組み入れできるかというと、不可能になっています。資本金に組み入れることのできる利益剰余金は、確定した決算の貸借対照表に計上されている利益剰余金であるとされています。言い換えると、半年間で獲得された利益剰余金は、まだ決算により確定されていない仮の数値であり、半年間では確定した貸借対照表は作り得ないので、第1期目では利益剰余金の資本組み入れはできないということになります。(注)

ところで、ある会社の会社謄本を見ていたところ利益剰余金の資本組み入れにより資本金の額を増加させていましたが、その減少させた利益剰余金の額が前期の確定した決算を超えるものになっていました。前期末(=当期首)の利益剰余金が500万円であるのに対して、当期に減少させた利益剰余金の額が800万円でした。これは、期中で300万円の利益を獲得したので、その期中利益分についても利益剰余金を減少させて資本組み入れを行っていました。

実際に、800万円資本金の額を増加する登記が完了していました。冒頭で、確定した決算の利益剰余金の額しか資本金に組み入れることができないと書きましたが、そのとある会社は期中利益についても資本金に組み入れる登記を完了させてしまっていました。

これについて法務局に電話で確認してみたところ、まだ確定していない期中利益を資本金に組み入れることは会社法上は正しくないのですが、登記申請書類に「形式の」不備さえなければ資本金増加の登記が完了できてしまうということでした。登記申請書類には、「その他利益剰余金の額に関する証明書」というものを添付するのですが、ここに書いてある利益剰余金の額が、確定した決算の貸借対照表に計上されている金額であるかどうかまでは法務局はチェックできません。なぜならば提出する登記申請書類には貸借対照表は含まれていませんから。正しい証明書を作成するのは会社の役目であるという考え方なのでしょう。

「利益剰余金」は、貸借対照表の金額であり、「利益剰余金」を使う際は、常に(確定した決算の貸借対照表に計上される)利益剰余金というふうにカッコ内の意味をはらんでいるということを意識しなければなりません。


【参考文献】
(注)金子登志雄 「貸借対照表上の資本金の額の変更」月報司法書士No490 20頁(2012.12)
(投稿者:河野周輔)

利益剰余金の資本組み入れにより、どんなに資本金の額を増加させても、均等割の金額は増加しません。東京都の場合、資本金等の金額が1,000万円以下であれば均等割は70,000円ですが、利益剰余金の資本組み入れの結果、資本金の額が5,000万円になろうと、10億円になろうとも均等割は70,000円のまま増加しません。これは、均等割が決まる基準は、「資本金の額」ではなく「資本金の額」と定められているためです。「等」が付くと、利益剰余金由来の資本金の額は、資本金等の額からはマイナスされます。(法人税法施行令8条1項13号)

例えば、「資本金の額」が3,000万円だとして、このうち利益剰余金由来の金額が2,500万円含まれているとします。そうすると、「資本金の額」は3,000万円-2,500万円=500万円となり、1,000万円以下になりますので均等割の金額は70,000円となります。

一方、利益剰余金由来の資本金の額をマイナスせずに判定される制度もあるので、これには注意が必要になります。法人税法では中小企業向けの税優遇措置がありますが、これは「資本金の額」が1億円以下であることが求められます。利益剰余金を資本金に組み入れた結果、資本金の額が1億円超となってしまった場合にはこの優遇措置が受けられなくなってしまいますので優遇措置を引き続き受けたいのであれば1億円以下にする必要があります。

法人税(国税)に加えて、事業税(地方税)についても資本金の額が1億円超となった場合に外形標準課税と呼ばれる課税が追加で行われることとなり、資本金1億円以下の場合よりも税負担が増加します。資本金の額が1億円超と1億円以下では課税の行われ方が変わってくることに留意が必要です。

(投稿者:河野周輔)

平成18年に会社法が施行されましたが、施行当時は、利益剰余金の直接の資本組み入れは制度として存在していませんでした。やるとすれば、株主に利益剰余金から配当を行い、株主がその配当金を元手に会社に金銭出資をする方法しかありませんでした(この方法は配当金支払時に課税が行われるので、税金分だけロスがありました。)。

会計学の重要な原理原則として、元手である資本金と、その運用結果である利益剰余金は区別しなければならないというものがあります。リンゴの木が資本金であるとすると、リンゴの果実は利益剰余金です。元本であるリンゴの木と、リンゴの果実は生い立ちがそもそも別物であるのでこれらを区別することなく同一のものとしてはなりません、という考え方です。

会社法はこの原則を厳格に守り、平成18年の会社法施行当時は利益剰余金を一度、配当により社外へ流出させなければ資本金に転化することができませんでした。しかし平成21年4月の会社法の改正で、会社法において元本と果実の区別についての考え方が緩和されたことにより、利益剰余金を直接、資本金に変化させることができるようになりました(資本剰余金と利益剰余金の互いの行き来は不可能です)。また、利益剰余金の資本組み入れは、法人税法上、株主に配当が行われたものとは見られませんので配当課税のロスも起こりません。

利益剰余金をもって資本金を増強させたい、と望む中小企業にとってこの改正は歓迎されたのではないでしょうか。

(投稿者:河野周輔)

コンサルティング業の方は、棚卸資産や固定資産の購入なしで商売が始めることができますので通常、設立時の資本金の額が少額であることが多いです。50万円や100万円でスタートする方もいらっしゃいます。一方、資本金が50万円や100万円のままですと金額が少ないものですから新しく他者と取引を始める際に与信審査でNGとなってしまうこともありますので、増資を行って資本を充実させ、対外的な信用力を強めたいという要望がよくあります。

そのときに提案するのが利益剰余金の資本組み入れです。増資と言えばまず一番最初に思いつくのが金銭出資なのですがそのためには当然現金が必要になります。一方、利益剰余金の資本組み入れの場合には現金は必要ありません。これは利益剰余金の金額を資本金の額に変更させてしまう手法です。よって、利益剰余金は減少して、その分資本金の額が増加することになります。

  • ・資本金の額を増加させたい
  • ・追加の金銭出資はしたくない
  • ・利益剰余金の累積はある
という条件が揃えば、利益剰余金の資本組み入れを行うことになります。

(投稿者:河野周輔)

税務調査は通常、直前の3期分の決算を対象とします。税務調査の連絡が税務署から来たけども、3期分すべて、給与の仕掛品計上を行ってなかったことが判明しました。この場合、税務署からどのように修正申告を求められるでしょうか。

例として次のような状況であったとします。3期決算が終わって4期目に入った会社があります。4期目に税務署から電話がかかってきて1期から3期の税務調査をしたいということでした。

1期目から3期目まですべて利益が出ており、それぞれ法人税の納税を行っています。1期目から3期目まですべて期末仕掛品を計上すべきところを、計上できていませんでした。すべての期で仕掛品計上を忘れていた場合、どのような追加納税となるでしょうか。次の図をご覧ください。

(+)は、仕掛品を計上し忘れによる利益の増加を意味します。(-)は計上された仕掛品が費用化されて利益が減少することを意味します。仕掛品の発生は利益の増加で、仕掛品の消滅は利益の減少となり、期末の(+)は、翌期で(-)されて解消します。仮定の数値ですが、もし1期末の2期末の(+)の値が両方とも50であったならば、次の図のようになります。

上のように、最終的には1期目の(+50)だけが当初申告した利益よりも増加するので、1期目から3期目まですべての期で仕掛の計上忘れがあったとしても、1期目についてのみ、仕掛計上忘れによる追加納税をしてくださいということになります。2期目と3期目は仕掛計上忘れもあるのですが、他方で前期の仕掛品の解消(消滅)による利益マイナスもあるためプラスマイナス0となり、課税所得への影響はありません。

(投稿者:河野周輔)

次に、前回の記事とは真逆のパターンではどうでしょうか。1ヶ月の社長報酬の全額が会社経営全般に対する報酬であった場合です。

前回とは逆で決算時に仕掛途中の仕事があったとしても社長の給与は会社経営報酬であるものとして、全額を経費とする考え方です。

ところが1人社長であるため、実際にはお客さんのところへ行ってコンサルティング業務を行っています。お客さんの現場でコンサルティング業務を行っている事実はあるわけなので、社長の報酬の全額が会社経営に対する報酬として考えることは、明らかに事実に反しています。これが、現場労務の割合が30%であるとの会社の主張に対し、「いやいや40%でしょう」と反論するのは骨の折れる仕事なので税務署はやろうとしませんが、現場労務の割合が0%であるとの主張に対しては「いやいや0%はないでしょ。1ヶ月のうちに10回、お客さんのところに行っている記録が残っているじゃないですか。現場労務の割合が何%になるかは(面倒臭いから)私は計算できないけれども、0%でないことだけは明らかですよね。(面倒臭いだろうけども)そちらでちゃんと現場労務割合を計算して仕掛品計上してくださいね。」と指摘するのは簡単なことなので言ってきます。

本来、仕掛品に計上すべき金額を役員報酬として経費にしていますので過大な経費計上です。過大な経費計上は過少な利益計上になりますので、つまりは過少な税金納税です。よって税務署は納税が過少ですので追加で納めてくださいねと会社に促すことになるわけです。

(投稿者:河野周輔)

前回の記事と同様に、1ヶ月の報酬が100万円である社長がいた場合に次のような報酬の内訳を決めたとします。1ヶ月の社長報酬の全額が現場労務に対する報酬であった場合です。

現実には、社長の業務は現場労務だけでなく、会社経営もありますので、上図のような報酬の内訳は実態通りではありません。なぜなら100万円のうち、いくらかは会社経営全般についての報酬も存在しているはずですので。

100万円を全額、現場労務報酬であるとして処理した場合、期末に仕掛状態の仕事があると月額100万円の労務報酬を仕掛品の対象とすることになります。その結果、損益計算書も実態を正しく表さないものとなります。なぜなら本来あるべき会社経営についての報酬についても仕掛品計上してしまっており、経費にすべき会社経営報酬を経費計上できていないために過大に利益が計上されてしまうからです。

以上により、社長給与の全額を現場労務報酬として仕掛品計上すると真に正しい損益計算書が作成されない結果となりますが、一方、税務調査においてはこの正しくない損益計算書について税務署は何も指摘はしてきません。なぜかといいますと、これは「仕掛品の過大計上」=「利益の過大計上」ですので税務署からしてみれば利益を本来よりも多く計上することにより多く納税してくれているためです。

税務署は利益を過少に計算して、税金を過少に納めている処理について追加で税金を納めてくださいねと促すのが仕事であって、税金を過大に納めている処理を発見して多く納め過ぎていましたので還付しますね、という仕事は積極的には行いません(ただし、中には税務調査で過大納税が発見されて税金が還付されることもあります)。

以上より、仕掛品を過大に計上することは税務調査では問題にはなりませんが他方、金融機関から借入を行う際には仕掛品の過大計上による利益の過大計上を行った決算書を提出することになりますので審査時に問題となる可能性はあります。

(投稿者:河野周輔)

1ヶ月の報酬が100万円である社長がいたとします。この場合、社長の労働時間の半分くらいが現場労務で、残りの半分は営業活動、会社内部の事務作業などの会社経営全般の労働であったとします。図で示すと次のようになります。


社長の役員報酬の半分が現場労務部分であると説明できれば、この50万円については仕掛品の対象となる報酬であるということになります。半分が現場労務部分の報酬として妥当である、というのは税務署が認定するものではなくて社長自身が証明しなければなりません。証明の仕方として一番説得力があるのは、社長自身が記録している日々の業務日報になります。業務日報にある時間をカウントしてみて総労働時間の大体半分くらいが現場でコンサルティングをしている、という結果になっていれば上の図のように半分を現場労務部分とできます。

がしかし、毎日、業務日報を付けている社長がどれくらいこの世の中にいるでしょうか・・・。業務日報を付けていなかったとしても税務署はそれを否定することはできません。否定するには、否定するだけの根拠が必要になるのですが税務署はそれを持ち合わせていませんので否定できません。業務日報を付けていなかったとしても何時から何時までお客さんのところにいたとか、この日のこの時間はお客さん先に移動していたという事実は何らかの形で残りますのでそれらを総合して説明してそれが妥当であると納得してもらえれば、業務日報がないからといって税務署がダメと言うことはありません。

(投稿者:河野周輔)

決算月をまたがる仕事があった場合に、仕掛状態にある仕事に関しての給与は仕掛品計上しなければならないということでしたが、役員報酬の場合はどうなるでしょうか。教科書で原価計算を学ぶと通常、役員報酬は純然たる「販売費及び一般管理費」であり、原価性はないため棚卸資産の金額を構成することはないのですが、現実問題として1人社長のコンサルティング会社で、決算で仕掛状態にある仕事があるということは起こりえます。

この場合、役員報酬であっても仕掛品を計上する必要があると考えられます。会社の従業員が代表取締役1人だけであれば、現実として社長が現場でコンサルティング業務を行っていますので社長の1ヶ月の報酬は会社経営に対する報酬と、現場労務に対する報酬に分けられなければ社長の報酬の説明がつきません。ですので社長の1ヶ月の報酬のうち、現場労務に対する報酬部分については仕掛品計上を行う必要があると考えられます。社長の1ヶ月の報酬を全額を仕掛計上するわけではなく、現場労務に対する部分の金額のみを仕掛品計上すれば税務調査では問題にならないでしょう。

なお現場労務に対する部分の金額をいくらにすればよいのかは、会社自身が決めることになります。税務署は、会社自身が決めた金額によほどの非合理性がなければ否認はできません。会社が決めた計算方法により合理的に仕掛品額を計上できていれば税務調査で是認でしょう。



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 なお、法人税法基本通達2-2-9に(技術役務の提供に係る報酬に対応する原価の額)の取扱いがあり、これに該当するものについては仕掛品計上を行う必要はありません。社長の業務がこれに該当するかどうかの検討を行い、該当するのであれば仕掛品計上は必要ありません。

2-2-9 設計、作業の指揮監督、技術指導その他の技術役務の提供に係る報酬に対応する原価の額は、当該報酬の額を益金の額に算入する事業年度の損金の額に算入するのであるが、法人が継続してこれらの技術役務の提供のために要する費用のうち次に掲げるものの額をその支出の日の属する事業年度の損金の額に算入している場合には、これを認める。(昭55年直法2-8「七」により追加)
(1) 固定費(作業量の増減にかかわらず変化しない費用をいう。)の性質を有する費用
(2) 変動費(作業量に応じて増減する費用をいう。)の性質を有する費用のうち一般管理費に類するものでその額が多額でないもの及び相手方から収受する仕度金、着手金等(2-1-12の(注)の適用があるものに限る。)に係るもの
(投稿者:河野周輔)

決算期をまたぐコンサルティングの仕事がある場合には、従事者の給与を仕掛品に計上する必要がありますが、これを防ぐ方法として毎月売上が立つよう契約書を作成することが考えられます。毎月ごとに、その月の業務が完了したことにより売上請求を行うことができれば決算月において仕掛状態の仕事はありませんので仕掛品の計上は必要ありません。

もちろん、この方法はお客様との同意の上で進めるべきことですのでこちらの都合だけで決められるわけではありませんが、一考してみる価値はあると思います。毎月売上が立てられれば、毎月入金となりますので資金繰りの改善にもつながります。

仕掛状態の人件費は仕掛品計上するものだ、という認識を最初から持っていないと会社は決算処理でスルーしてしまいます。実際スルーしてしまっている会社は世の中にたくさんあります。税務署も、世の中の会社が仕掛処理をきちんと行っていないことを知っているので必ず税務調査では確認してきます。そのため会社は期末時点の仕掛状態となっている契約を明確にして、決算において仕掛品計上をする必要があります。

(投稿者:河野周輔)

この従業員給与の仕掛品計上は、決算で気をつけなければならない論点です。なぜ決算であるかというと、事業年度の途中でこのような仕掛品が生じたとしても決算月が到来するまでの間に仕事が完了していれば結局は決算では考慮する必要がないためです。

たとえば、決算日がH26.8.31であるとして、H26.2.1~H26.3.31の2ヶ月間のコンサルティング契約があったとします。この場合もこの仕事に従事する従業員の2月給与は仕掛品計上するのが2月の会計処理としては正しいわけなのですが、決算日がH26.8.31であるため2月給与を仕掛品処理せずに給与処理してしまったとしても1年間の決算報告書では結果的には正しい処理となります(2月だけ切り出した損益計算書では、売上なし・給与ありの関係になりますので誤りですが、この誤りは対外的に是正が求められるものではないため実害なしです)。

事業年度の途中に、仕事が完了したものについては1年間の決算書で見ると結果的に正しい処理となりますので、気をつけるべきは決算日時点での仕事が途中段階になっている契約です。「仕掛品」という名が表す通り、仕掛途中の仕事について気をつけなければなりません。この論点は、給与として経費計上していたものを仕掛品として訂正しますので、経費が多すぎた処理でした。税務署にこれを発見されてしまうと「経費が多すぎでしたね→法人の利益がその分増えますね」で法人税の修正申告(追加納税)が生じてきてしまいます。

(投稿者:河野周輔)

コンサルティング業は在庫を持たない商売なのに、どうして仕掛品勘定が登場するの?と疑問に思われるかもしれませんが、生じることも起こりえます。

具体的な例を挙げてみます。決算がH26.7.31月である法人で、受注したコンサルティングの仕事の契約期間がH26.7.1~H26.8.31でした。受注金額は216万円(税込)です。契約により、H26.8.31にコンサルティングレポートを納品することで業務が完了する契約になっています。この場合、売上高の計上は仕事が完了したH26.8.31になります。一方、会社としてはこのコンサルティング業務に従事した従業員に毎月給与を80万円支払うものとします。

そうするとH26.7月については、売上は0である一方、従業員給与を80万円支払ったことにより何も考慮しないと80万円の赤字になってしまいます。ただし、80万円の赤字とする処理は誤りであり、商品在庫の考え方と同様にこの7月の80万円の給与は売上が実現するまでは「棚卸資産(勘定科目は仕掛品)」として経費にしないのが会計理論的には正しい処理となります。

仕掛品/期末仕掛 80万円(7月分給与)・・・期末仕掛は経費のマイナスする科目です

そして、翌期のH26.8.31に、次の仕訳が行われることにより売上と経費が確定することになります。

売掛金/売上 216万円
期首仕掛/仕掛品 80万円(7月分給与)・・・期首仕掛は経費をプラスする科目です
給与/現金  80万万円(8月分給与)

↑の3本の仕訳から利益を計算すると次のようになります。
税抜売上200万円-80万円(7月給与)-80万円(8月給与)=40万円の利益

(投稿者:河野周輔)

会計の世界には、「仕掛品」という用語があります。「仕掛品」は勘定科目名であって、大きな分類でいうと棚卸資産のうちの1つです。要は在庫のことです。

棚卸資産には、仕掛品以外にも、「商品」や「未成工事支出金」があります。仕掛品は、商品や未成工事支出金の仲間ですので、呼び方は違えど、お互いに性格は同じであり会計上は同じ働きをします。

棚卸資産は、「商品」が一番イメージしやすいです。卸売業や小売業では、よそから買ってきた商品は、他者に販売されるまでは「商品」として貸借対照表の資産の部に存在します。これが意味するのは、よそから買っただけでは損益計算書上、経費にならないということです。仕訳で示すと、

商品/現金

です。そして、他者に販売されて初めて、資産の部の「商品」は、損益計算書の経費に変化します。
現金/売上・・・他者に販売
仕入/商品・・・商品の経費化

上の具体例より、棚卸資産とは、購入時(債務確定時)には経費にならず資産となり、他者に販売されたときにはじめて経費となるものをいいます。購入時に経費としないのは購入時に経費にしていたのでは、一事業年度の儲けが正しく計測できないからです。

(投稿者:河野周輔)

うまく2社とも簡易課税を使ったとして、税務調査でまず最初に聞かれるのが「会社を2つに分けている理由」です。その理由が「2社ともで簡易課税を使いたい」という理由であれば、アウトでしょう。目的が租税回避になってしまっているからです。租税回避目的以外で、2社に分かれているための経済合理的な理由が必要です。2社はそれぞれ行っている事業が違っていて事業ごとに、会社としての損益責任を持たせるために分けている等の合理的な理由が必要です。その目的に沿った結果、副次的に2社ともに簡易課税が適用されたんだということです。

また、2社に分かれている以上、それぞれの会社が外部から見て自然な経済活動を行っていることも必要です。具体的には、2つ目の会社も家賃を支払う、経理事務のコストを支払うということです。2社目の方は、そういったコストのことを忘れてしまって、家賃も経理事務のコストも1社目の方で持ってしまっては税務当局からすれば結局、一体の会社じゃないかというふうにみなされてしまいます。

ですので、2社目の方も、住所が1社目と同じにするのであれば1社目に家賃を支払う、経理事務が自身でできないのであれば1社目に経理事務委託費用を支払うなどの会社としての独立した体制を整える必要があります。

(投稿者:河野周輔)

前回の記事では、簡易課税が適用できる会社を新しく2つ作成して益税額を2倍にできるということでしたが、逆に既にある会社を会社分割して2つに分けることによって原則課税であった1つの会社を簡易課税が適用できる2つの会社にすることも可能です。

課税売上高がちょうど1億円の会社があったとして分割後の2社それぞれの売上がちょうど5,000万円になれば、2社ともに簡易課税が適用できるようになります。

前回の記事で極端な例を出しましたが、消費税率が10%になったとするとコンサルティング業(第五種事業)では益税がmaxで227万円×2社=454万円となります。maxで454万円ですので、その会社の課税仕入れの金額によっては益税額は454万円よりも小さくなります。

じゃあ、うちも簡易課税の適用を受けるために会社分割しようかと考えるときに、やはり気をつけなければならないのが税務調査で簡易課税の適用を否認されてしまうことです。税務当局によって会社が適法な節税であると思ってやったとしても、当局によって行き過ぎた租税回避行為であると判断された場合には否認される場合もあります。租税回避を主眼に置いた合併・分割は税務当局によって否認される事例が多く見受けられますので実行には税務調査に耐えうる事前検討が必須です。

(投稿者:河野周輔)

課税仕入れの少ない事業者は、消費税率が上がると益税額も増加するという説明を前回の記事で行いました。極端な例の方がわかりやすいので、極端な例を出します。コンサルティング業で、課税売上高が税込で5,000万円で、課税仕入高が0であった場合の消費税納税額は次のとおりです(計算式は簡略化したものです)。なお、益税額を多くするために消費税率は10%にしてしまっています。平成27年10月1日から消費税率は10%になることが予定されています。

 原則課税:5,000万円(税込)×10/110=454万円
 簡易課税:5,000万円(税込)×10/110×50%=227万円

原則と簡易の差額は、227万円ですので簡易課税は227万円を益税として得られることになります。これを非常においしいと感じる経営者は、簡易課税でmax227万円益税として得られるのであれば会社をもう1つ作ってその会社でも益税を得ようとするかもしれません。2社同じことができれば益税額は倍の454万円です。10年続けることができれば4,540万円の累積益税になります(ただし法人税の税引前です)。

益税額が2倍になるのはメリットですがデメリットもあります。

(デメリット)
 ・1社よりも税務作業が増加するので税理士コストが増える
 ・簡易課税から外れないように売上をコントロールする必要がある
 ・税務調査で否認されるリスクがある(2社は一体不可分の会社であるとみなされるリスク)
 ・将来できなくする封じ込めの法改正が行われる必要がある
(投稿者:河野周輔)

簡易課税が適用できるのは前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下である事業者ですが、この課税売上高の基準は、消費税法が創設されて以来、徐々に引き下げられてきました。

平成元年:5億円以下

平成3年:4億円以下

平成9年:2億円以下

平成16年:5000万円以下

国としては益税額をなるべく小さくしたいということと、本当に小さな事業者のみに簡易課税を認めてあげるという思惑から徐々に適用範囲が狭められてきているのだと思います。

簡易課税が適用できる事業者の範囲が徐々に狭められてきている経緯から、今後、簡易課税の課税売上高の基準が引き下げられることも十分考えられます。小規模事業者の経理事務の負担を考慮すると完全に簡易課税が消滅するとは考えにくいですが例えばの話ですが現在の5,000万円から3,000万円に引き下げられる可能性はあると思います。

また、簡易課税の適用範囲縮小に併せて、消費税の免税点も現在の1,000万円から引き下げられることも考えられますので小規模な事業者にとっても今後の消費税法の改正は目が離せません。

(投稿者:河野周輔)

簡易課税を適用している事業者で益税が出ている場合には、消費税率が上がることによって、益税の額も増加することになります。

仮にコンサルティング業で実際の支払消費税額が0だとすると、益税額は預かり消費税額×50%です。現在、消費税率が8%ですが、平成27年10月1日より消費税率が10%になった場合、支払消費税額は変わらないものとすると益税額は次のようになります。

  8%時:預かり消費税額×50%=0.5預かり消費税額
  10%時:預かり消費税額×50%÷0.08×0.10=0.625預かり消費税額

0.5預かり消費税額→0.625預かり消費税額と変化しますので、益税額の増加率は1.25倍です。8%→10%への増加ですので、10%÷8%=1.25の増加率と結局は同じになります。これは8%から10%への増加率でしたが、平成26年4月1日よりも前は消費税率が5%でしたので、5%→10%の増加率で考えると2倍です。5%のときと比べるとなんと2倍も益税額が増加することになります。

消費税率が5%時代であったときに益税額が50万円であった事業者は、消費税率が10%になると倍の100万円となりますので小規模な事業者にとってはバカにできない金額です。

(投稿者:河野周輔)

消費税は原則課税を選択するか簡易課税をするかでトクすることもあれば損をすることも起こってしまいます。消費税の簡易課税制度は税理士の神経を使わせる制度です。税理士がお客様の状況を確認せずに前年と同じ課税方式でいいや、とほったらかしにしておくと後になってから原則課税の方が有利だったじゃないか、ということになってしまうこともあります。

もし、消費税の申告を行うタイミングで原則課税か簡易課税の好きな方を選べる制度であれば、そのときの決算で必ずトクをする方を選べるので問題はおこらないのですが、原則にするのか簡易にするのかを選択できる期限は、適用事業年度の前日までです。つまり、計算を適用する事業年度が開始するまでに消費税簡易課税制度選択届出を税務署に提出しておかなければなりません。事業年度がスタートしてしまってからでは、もう遅いということです。

消費税の課税方式でトクをしたいのであれば、事業年度スタートするまでに課税売上と課税仕入れの正確な予測をする必要があるというわけです。

(投稿者:河野周輔)

簡易課税では、どのような方がトクをするのか具体的に挙げてみたいと思います。コンサル業でまったく外注を使用せずに自分自身のみが稼働する方は簡易課税を選択した方がトクをします。それこそ、外注もない、家賃もない、経費らしい経費がなにもない場合には、原則課税で消費税を計算すると、売上に係る預かり消費税をそのまま納税しなければならいのですが、簡易課税ですとみなし仕入率50%を使って、預かり消費税×50%の納税で済むということになります。極端な例ではありますが、預かり消費税の50%部分がトクであるということです。

簡易課税は、国がみなし仕入率を定めるということですので、実際の、自身の商売のみなし仕入率が低いのであれば実際の消費税がかかる仕入率との差が、トクをする部分になるわけです。上のコンサル業の例でいくと、50%(みなし仕入率)-0%(実際消費税課税の仕入率)=50%がトク部分です

コンサル業以外でも、高付加価値が自社労働(役員報酬・給与)により生み出される商売は、簡易課税が有利になります。

たとえばオーダーメイドテーラーがいたとします。このテーラーは技術やお客様対応が優れていたのでスーツが高い値段で売れます。原材料の生地自体は10万円で仕入れたとしても完成製品は50万円で販売することができます。そうすると、実際の消費税課税仕入率は20%なのですが、第三種事業としてみなし仕入率が70%に設定されていますので70%-20%=50%もトクすることになります。

(投稿者:河野周輔)

業種別の簡易課税により納税する消費税は次のようになります。(預かり消費税をAとします。)

第一種事業:A-A×90%=A×10%(卸売業)
第二種事業:A-A×80%=A×20%(小売業)
第三種事業:A-A×70%=A×30%(製造業)
第四種事業:A-A×60%=A×40%(飲食業・金融業)
第五種事業:A-A×50%=A×50%(サービス業・不動産業)

簡易課税と原則課税、どちらがトクをするのかは、会社ごとよって違いますので試算する必要があります。たとえば、第五種に該当するコンサル業であっても外部の外注業者を多く活用する会社である場合には、外注業者の支払は消費税が課税されるので原則課税の方が消費税の納税額が少なくなるということもありえます。試算のやり方としては売上から売上に直接的に貢献する売上原価を差し引いた粗利がどれくらいであるのかを知ることで簡易課税の方がいいのか、原則課税の方がいいのかを判断する目安ができます。

年間の売上が4,000万円(税込)、外注費が2,500万円(税込)だったとします。この場合、粗利率は
(4,000万円-2,500万円)/4,000万円=0.375
となり、第五種事業の納税率50%よりも小さくなります。原則課税を選択した場合には、売上4,000万円-外注2,500万円=1,500万円(税込金額)から消費税を納めます。他の経費は端折って粗利だけで計算してしまうと1,500万円×8/108=111万円の消費税納税です。

簡易課税で計算すると、4,000万円×50%=2,000万円(税込)から消費税を納税するので2,000万円×8/108=148万円の納税です。

このように、コンサル業であっても外注を多く使用している場合には原則を選択した方が有利になります。

(投稿者:河野周輔)

原則課税には、経費に係る支払消費税額を、預かり消費税額から控除して最終的な納税額を計算するということでしたが、簡易課税ではどのようになっているでしょうか。

簡易課税であっても、経費に係る支払消費税額の計算を実は行っています。コンサルティング業で簡易課税を選択した場合、預かり消費税額の50%を納税するのですが、消費税法上の計算構造は次のようになっています。売上高は月216万円であるとします。

 216万円×8/108(預かり消費税)-216万円×8/108×50%(経費に係る支払消費税)=96万円

以上のように、簡易課税であっても原則課税と同様に経費に係る支払消費税は計算されています。違いは、原則課税は「実額」を使用するのに対して簡易課税は「みなし仕入率」(上では50%)を使用して支払消費税額を計算するという点です。預かり消費税額に、みなし仕入率を乗じて、支払消費税額を計算します。みなし仕入率が50%であるので、経費に係る支払消費税のところを省略して、預かり消費税額×50%がコンサルティング業の簡易課税の場合の納税額だと試算することが多いです。みなし仕入率が70%である業種である場合には、預かり消費税額×30%が簡易課税の納税額であると試算します。

コンサルティング業のみなし仕入率は50%と定められています。みなし仕入率は90%~50%まであります(平成27年4月1日からは40%も登場します)。このみなし仕入率が大きければ大きいほど、計算に当てはめると納税する消費税額が小さくなります。コンサルティング業のみなし仕入率は残念ながら50%と他業種に比べると低く設定されています。低く設定されているのは、他業種に比べて経費に係る支払消費税額が少ないでしょ、と考えられているためです。

確かに、コンサルティング業は卸売業や小売業と違い、消費税のかかってくる原価・経費は多くありません。社長自身に支払う給与は消費税の課税対象外ですので、支払消費税は生じません。業種によって売上のどのくらいの割合の支払消費税がかかっているのかの平均割合を国が算出して、みなし仕入率を定めているというわけです。

(投稿者:河野周輔)

消費税の原則課税と簡易課税の比較について、前回の記事では、極端に単純化して説明してみました。

原則課税の納税額を
 216万円×12×8/108=192万円
としましたが、これは最も単純な計算でして、実際にはこうはなりません。 なぜならば、経費に係る支払消費税額の計算を考慮していなかったからです。 原則課税は売上に係る預かり消費税(192万円)から 経費に係る支払消費税を控除して、最終的に国に納税する消費税額を計算します。

例えば、事務所の家賃が月額54万円(税込)であったとします。
この場合に納税する消費税は、
 216万円×12×8/108(預かり消費税)-54万円×12×8/108(支払消費税)=144万円
となります。

原則課税の場合には
 預かり消費税-支払消費税=差引納付消費税
という計算を行います。

上の場合、益税の金額は、
 144万円(原則課税)-96万円(簡易課税)=48万円となり、
前回の記事で計算した益税額96万円よりも小さくなってしまいました。さらに、今回の益税額48万円には前回書いたように法人税も課税されてくるということになります。

原則課税の計算では実際にかかった経費に係る支払消費税額を、預かり消費税額から控除するため 支払消費税額の金額の如何によって、最終的な国への納税額が変わってくる計算構造になっています。

(投稿者:河野周輔)

この「コンサルティング業界の税務」カテゴリではコンサルティング業界に関係のある税務について記載してみたいと思います。ただし、ここで言うコンサルティング業というのは1人でフリーランスで活動されている方を想定しています。今回は簡易課税について書きますので、売上高が年間5,000万円(税込)以下の規模の方が対象です。毎月の売上が400万円(消費税込)であれば年間5,000万円いきませんので消費税計算で簡易課税を選択することができます。

事業者(法人と個人事業主どちらも)は売上から預かった消費税を国に納める義務があるわけですが、納税額を計算するときの計算方法として次の2種類があります。

  • ・原則課税
  • ・簡易課税

例えば、月216万円(税込)を売り上げるコンサルタントが納税する消費税はそれぞれ、次のようになります。

  • 原則課税:216万円×12×8/108=192万円
  • 簡易課税:216万円×12×8/108×50%=96万円

簡易課税の場合、原則課税の半分の96万円を国に納税することになります。

このように簡易課税の場合、納税する消費税が上記例ですと半分で済み、納税せずに済んだ金額(96万円)のことを「益税(えきぜい)」といいます。売上の小さな規模の会社は難しい計算方法である原則課税ではなく、簡単な計算方法である簡易課税で計算していいですよ、というのが簡易課税が存在している理由です。これにより、上記例では原則課税に比べて簡易課税の方が96万円トクするわけです。

簡易課税によって消費税確かに96万円トクしたのですが、これは損益計算書上、利益として認識されますので、簡易課税は「96万円の益税に法人税が課税」されてしまいます。

法人税率がざっくり30%として、簡易課税で得た96万円に30%の法人税がかかります。よって96万円×30%=28.8万円の法人税がかかります。消費税は96万円浮いたけども、法人税は28.8万円余計にかかるので、差引き96万円-28.8万円=67.2万円、簡易課税により儲かったという計算になります。

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