(投稿者:河野周輔)

前回の記事では、簡易課税が適用できる会社を新しく2つ作成して益税額を2倍にできるということでしたが、逆に既にある会社を会社分割して2つに分けることによって原則課税であった1つの会社を簡易課税が適用できる2つの会社にすることも可能です。

課税売上高がちょうど1億円の会社があったとして分割後の2社それぞれの売上がちょうど5,000万円になれば、2社ともに簡易課税が適用できるようになります。

前回の記事で極端な例を出しましたが、消費税率が10%になったとするとコンサルティング業(第五種事業)では益税がmaxで227万円×2社=454万円となります。maxで454万円ですので、その会社の課税仕入れの金額によっては益税額は454万円よりも小さくなります。

じゃあ、うちも簡易課税の適用を受けるために会社分割しようかと考えるときに、やはり気をつけなければならないのが税務調査で簡易課税の適用を否認されてしまうことです。税務当局によって会社が適法な節税であると思ってやったとしても、当局によって行き過ぎた租税回避行為であると判断された場合には否認される場合もあります。租税回避を主眼に置いた合併・分割は税務当局によって否認される事例が多く見受けられますので実行には税務調査に耐えうる事前検討が必須です。

(投稿者:河野周輔)

課税仕入れの少ない事業者は、消費税率が上がると益税額も増加するという説明を前回の記事で行いました。極端な例の方がわかりやすいので、極端な例を出します。コンサルティング業で、課税売上高が税込で5,000万円で、課税仕入高が0であった場合の消費税納税額は次のとおりです(計算式は簡略化したものです)。なお、益税額を多くするために消費税率は10%にしてしまっています。平成27年10月1日から消費税率は10%になることが予定されています。

 原則課税:5,000万円(税込)×10/110=454万円
 簡易課税:5,000万円(税込)×10/110×50%=227万円

原則と簡易の差額は、227万円ですので簡易課税は227万円を益税として得られることになります。これを非常においしいと感じる経営者は、簡易課税でmax227万円益税として得られるのであれば会社をもう1つ作ってその会社でも益税を得ようとするかもしれません。2社同じことができれば益税額は倍の454万円です。10年続けることができれば4,540万円の累積益税になります(ただし法人税の税引前です)。

益税額が2倍になるのはメリットですがデメリットもあります。

(デメリット)
 ・1社よりも税務作業が増加するので税理士コストが増える
 ・簡易課税から外れないように売上をコントロールする必要がある
 ・税務調査で否認されるリスクがある(2社は一体不可分の会社であるとみなされるリスク)
 ・将来できなくする封じ込めの法改正が行われる必要がある
(投稿者:河野周輔)

簡易課税が適用できるのは前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下である事業者ですが、この課税売上高の基準は、消費税法が創設されて以来、徐々に引き下げられてきました。

平成元年:5億円以下

平成3年:4億円以下

平成9年:2億円以下

平成16年:5000万円以下

国としては益税額をなるべく小さくしたいということと、本当に小さな事業者のみに簡易課税を認めてあげるという思惑から徐々に適用範囲が狭められてきているのだと思います。

簡易課税が適用できる事業者の範囲が徐々に狭められてきている経緯から、今後、簡易課税の課税売上高の基準が引き下げられることも十分考えられます。小規模事業者の経理事務の負担を考慮すると完全に簡易課税が消滅するとは考えにくいですが例えばの話ですが現在の5,000万円から3,000万円に引き下げられる可能性はあると思います。

また、簡易課税の適用範囲縮小に併せて、消費税の免税点も現在の1,000万円から引き下げられることも考えられますので小規模な事業者にとっても今後の消費税法の改正は目が離せません。

(投稿者:河野周輔)

簡易課税を適用している事業者で益税が出ている場合には、消費税率が上がることによって、益税の額も増加することになります。

仮にコンサルティング業で実際の支払消費税額が0だとすると、益税額は預かり消費税額×50%です。現在、消費税率が8%ですが、平成27年10月1日より消費税率が10%になった場合、支払消費税額は変わらないものとすると益税額は次のようになります。

  8%時:預かり消費税額×50%=0.5預かり消費税額
  10%時:預かり消費税額×50%÷0.08×0.10=0.625預かり消費税額

0.5預かり消費税額→0.625預かり消費税額と変化しますので、益税額の増加率は1.25倍です。8%→10%への増加ですので、10%÷8%=1.25の増加率と結局は同じになります。これは8%から10%への増加率でしたが、平成26年4月1日よりも前は消費税率が5%でしたので、5%→10%の増加率で考えると2倍です。5%のときと比べるとなんと2倍も益税額が増加することになります。

消費税率が5%時代であったときに益税額が50万円であった事業者は、消費税率が10%になると倍の100万円となりますので小規模な事業者にとってはバカにできない金額です。

(投稿者:河野周輔)

消費税は原則課税を選択するか簡易課税をするかでトクすることもあれば損をすることも起こってしまいます。消費税の簡易課税制度は税理士の神経を使わせる制度です。税理士がお客様の状況を確認せずに前年と同じ課税方式でいいや、とほったらかしにしておくと後になってから原則課税の方が有利だったじゃないか、ということになってしまうこともあります。

もし、消費税の申告を行うタイミングで原則課税か簡易課税の好きな方を選べる制度であれば、そのときの決算で必ずトクをする方を選べるので問題はおこらないのですが、原則にするのか簡易にするのかを選択できる期限は、適用事業年度の前日までです。つまり、計算を適用する事業年度が開始するまでに消費税簡易課税制度選択届出を税務署に提出しておかなければなりません。事業年度がスタートしてしまってからでは、もう遅いということです。

消費税の課税方式でトクをしたいのであれば、事業年度スタートするまでに課税売上と課税仕入れの正確な予測をする必要があるというわけです。

(投稿者:河野周輔)

簡易課税では、どのような方がトクをするのか具体的に挙げてみたいと思います。コンサル業でまったく外注を使用せずに自分自身のみが稼働する方は簡易課税を選択した方がトクをします。それこそ、外注もない、家賃もない、経費らしい経費がなにもない場合には、原則課税で消費税を計算すると、売上に係る預かり消費税をそのまま納税しなければならいのですが、簡易課税ですとみなし仕入率50%を使って、預かり消費税×50%の納税で済むということになります。極端な例ではありますが、預かり消費税の50%部分がトクであるということです。

簡易課税は、国がみなし仕入率を定めるということですので、実際の、自身の商売のみなし仕入率が低いのであれば実際の消費税がかかる仕入率との差が、トクをする部分になるわけです。上のコンサル業の例でいくと、50%(みなし仕入率)-0%(実際消費税課税の仕入率)=50%がトク部分です

コンサル業以外でも、高付加価値が自社労働(役員報酬・給与)により生み出される商売は、簡易課税が有利になります。

たとえばオーダーメイドテーラーがいたとします。このテーラーは技術やお客様対応が優れていたのでスーツが高い値段で売れます。原材料の生地自体は10万円で仕入れたとしても完成製品は50万円で販売することができます。そうすると、実際の消費税課税仕入率は20%なのですが、第三種事業としてみなし仕入率が70%に設定されていますので70%-20%=50%もトクすることになります。

(投稿者:河野周輔)

業種別の簡易課税により納税する消費税は次のようになります。(預かり消費税をAとします。)

第一種事業:A-A×90%=A×10%(卸売業)
第二種事業:A-A×80%=A×20%(小売業)
第三種事業:A-A×70%=A×30%(製造業)
第四種事業:A-A×60%=A×40%(飲食業・金融業)
第五種事業:A-A×50%=A×50%(サービス業・不動産業)

簡易課税と原則課税、どちらがトクをするのかは、会社ごとよって違いますので試算する必要があります。たとえば、第五種に該当するコンサル業であっても外部の外注業者を多く活用する会社である場合には、外注業者の支払は消費税が課税されるので原則課税の方が消費税の納税額が少なくなるということもありえます。試算のやり方としては売上から売上に直接的に貢献する売上原価を差し引いた粗利がどれくらいであるのかを知ることで簡易課税の方がいいのか、原則課税の方がいいのかを判断する目安ができます。

年間の売上が4,000万円(税込)、外注費が2,500万円(税込)だったとします。この場合、粗利率は
(4,000万円-2,500万円)/4,000万円=0.375
となり、第五種事業の納税率50%よりも小さくなります。原則課税を選択した場合には、売上4,000万円-外注2,500万円=1,500万円(税込金額)から消費税を納めます。他の経費は端折って粗利だけで計算してしまうと1,500万円×8/108=111万円の消費税納税です。

簡易課税で計算すると、4,000万円×50%=2,000万円(税込)から消費税を納税するので2,000万円×8/108=148万円の納税です。

このように、コンサル業であっても外注を多く使用している場合には原則を選択した方が有利になります。

(投稿者:河野周輔)

原則課税には、経費に係る支払消費税額を、預かり消費税額から控除して最終的な納税額を計算するということでしたが、簡易課税ではどのようになっているでしょうか。

簡易課税であっても、経費に係る支払消費税額の計算を実は行っています。コンサルティング業で簡易課税を選択した場合、預かり消費税額の50%を納税するのですが、消費税法上の計算構造は次のようになっています。売上高は月216万円であるとします。

 216万円×8/108(預かり消費税)-216万円×8/108×50%(経費に係る支払消費税)=96万円

以上のように、簡易課税であっても原則課税と同様に経費に係る支払消費税は計算されています。違いは、原則課税は「実額」を使用するのに対して簡易課税は「みなし仕入率」(上では50%)を使用して支払消費税額を計算するという点です。預かり消費税額に、みなし仕入率を乗じて、支払消費税額を計算します。みなし仕入率が50%であるので、経費に係る支払消費税のところを省略して、預かり消費税額×50%がコンサルティング業の簡易課税の場合の納税額だと試算することが多いです。みなし仕入率が70%である業種である場合には、預かり消費税額×30%が簡易課税の納税額であると試算します。

コンサルティング業のみなし仕入率は50%と定められています。みなし仕入率は90%~50%まであります(平成27年4月1日からは40%も登場します)。このみなし仕入率が大きければ大きいほど、計算に当てはめると納税する消費税額が小さくなります。コンサルティング業のみなし仕入率は残念ながら50%と他業種に比べると低く設定されています。低く設定されているのは、他業種に比べて経費に係る支払消費税額が少ないでしょ、と考えられているためです。

確かに、コンサルティング業は卸売業や小売業と違い、消費税のかかってくる原価・経費は多くありません。社長自身に支払う給与は消費税の課税対象外ですので、支払消費税は生じません。業種によって売上のどのくらいの割合の支払消費税がかかっているのかの平均割合を国が算出して、みなし仕入率を定めているというわけです。

(投稿者:河野周輔)

消費税の原則課税と簡易課税の比較について、前回の記事では、極端に単純化して説明してみました。

原則課税の納税額を
 216万円×12×8/108=192万円
としましたが、これは最も単純な計算でして、実際にはこうはなりません。 なぜならば、経費に係る支払消費税額の計算を考慮していなかったからです。 原則課税は売上に係る預かり消費税(192万円)から 経費に係る支払消費税を控除して、最終的に国に納税する消費税額を計算します。

例えば、事務所の家賃が月額54万円(税込)であったとします。
この場合に納税する消費税は、
 216万円×12×8/108(預かり消費税)-54万円×12×8/108(支払消費税)=144万円
となります。

原則課税の場合には
 預かり消費税-支払消費税=差引納付消費税
という計算を行います。

上の場合、益税の金額は、
 144万円(原則課税)-96万円(簡易課税)=48万円となり、
前回の記事で計算した益税額96万円よりも小さくなってしまいました。さらに、今回の益税額48万円には前回書いたように法人税も課税されてくるということになります。

原則課税の計算では実際にかかった経費に係る支払消費税額を、預かり消費税額から控除するため 支払消費税額の金額の如何によって、最終的な国への納税額が変わってくる計算構造になっています。

(投稿者:河野周輔)

この「コンサルティング業界の税務」カテゴリではコンサルティング業界に関係のある税務について記載してみたいと思います。ただし、ここで言うコンサルティング業というのは1人でフリーランスで活動されている方を想定しています。今回は簡易課税について書きますので、売上高が年間5,000万円(税込)以下の規模の方が対象です。毎月の売上が400万円(消費税込)であれば年間5,000万円いきませんので消費税計算で簡易課税を選択することができます。

事業者(法人と個人事業主どちらも)は売上から預かった消費税を国に納める義務があるわけですが、納税額を計算するときの計算方法として次の2種類があります。

  • ・原則課税
  • ・簡易課税

例えば、月216万円(税込)を売り上げるコンサルタントが納税する消費税はそれぞれ、次のようになります。

  • 原則課税:216万円×12×8/108=192万円
  • 簡易課税:216万円×12×8/108×50%=96万円

簡易課税の場合、原則課税の半分の96万円を国に納税することになります。

このように簡易課税の場合、納税する消費税が上記例ですと半分で済み、納税せずに済んだ金額(96万円)のことを「益税(えきぜい)」といいます。売上の小さな規模の会社は難しい計算方法である原則課税ではなく、簡単な計算方法である簡易課税で計算していいですよ、というのが簡易課税が存在している理由です。これにより、上記例では原則課税に比べて簡易課税の方が96万円トクするわけです。

簡易課税によって消費税確かに96万円トクしたのですが、これは損益計算書上、利益として認識されますので、簡易課税は「96万円の益税に法人税が課税」されてしまいます。

法人税率がざっくり30%として、簡易課税で得た96万円に30%の法人税がかかります。よって96万円×30%=28.8万円の法人税がかかります。消費税は96万円浮いたけども、法人税は28.8万円余計にかかるので、差引き96万円-28.8万円=67.2万円、簡易課税により儲かったという計算になります。

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