前回の記事と同様に、1ヶ月の報酬が100万円である社長がいた場合に次のような報酬の内訳を決めたとします。1ヶ月の社長報酬の全額が現場労務に対する報酬であった場合です。
現実には、社長の業務は現場労務だけでなく、会社経営もありますので、上図のような報酬の内訳は実態通りではありません。なぜなら100万円のうち、いくらかは会社経営全般についての報酬も存在しているはずですので。
100万円を全額、現場労務報酬であるとして処理した場合、期末に仕掛状態の仕事があると月額100万円の労務報酬を仕掛品の対象とすることになります。その結果、損益計算書も実態を正しく表さないものとなります。なぜなら本来あるべき会社経営についての報酬についても仕掛品計上してしまっており、経費にすべき会社経営報酬を経費計上できていないために過大に利益が計上されてしまうからです。
以上により、社長給与の全額を現場労務報酬として仕掛品計上すると真に正しい損益計算書が作成されない結果となりますが、一方、税務調査においてはこの正しくない損益計算書について税務署は何も指摘はしてきません。なぜかといいますと、これは「仕掛品の過大計上」=「利益の過大計上」ですので税務署からしてみれば利益を本来よりも多く計上することにより多く納税してくれているためです。
税務署は利益を過少に計算して、税金を過少に納めている処理について追加で税金を納めてくださいねと促すのが仕事であって、税金を過大に納めている処理を発見して多く納め過ぎていましたので還付しますね、という仕事は積極的には行いません(ただし、中には税務調査で過大納税が発見されて税金が還付されることもあります)。
以上より、仕掛品を過大に計上することは税務調査では問題にはなりませんが他方、金融機関から借入を行う際には仕掛品の過大計上による利益の過大計上を行った決算書を提出することになりますので審査時に問題となる可能性はあります。